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疫病




2004/ 1/21 マールブルグ病 UP


マールブルグ病


 1967年8月、旧西ドイツの古都マールブルグで、大手製薬会社のワクチン工場で働く研究者25人と、その家族など6人が原因不明の熱病を訴え、次々と病院に担ぎ込まれました。医者は、夏の盛りなのにインフルエンザのような症状を前に首をひねります。あれこれ手をこまねいてるうちに7人が死亡し、その頃、フランクフルトの医療品開発研究者、病理学者ら6人、旧ユーゴスラビアの首都ベオグラードでも獣医夫妻が同じ熱病にかかっていました。WHOが調査に乗り出した結果、原因は実験動物であるアフリカミドリザルであることが判明します。マールブルグの大手製薬会社は、アフリカの業者を通して大量のサルを輸入しており、この時もウガンダ産のアフリカミドリザルが解剖され、腎臓細胞を用いたポリオワクチンの研究が行われていました。

 感染者は皆組織材料を扱った研究者ばかりで、感染者に接触した家族などにも二次感染が起こってしまっています。フランクフルトとベオグラードでも、同じところから輸入したサルを使って研究が行われていました。アフリカミドリザルの腎臓に感染していたウィルスが研究者の皮膚の小さな傷口から侵入し、さらにそれが周囲の人に飛沫感染したものと考えられます。ウガンダの町、エンテベの貿易会社から輸入されたサルは、なんと出国の際に目視検査が行われたのみで、外見からの異常以外ほとんどノーチェックというずさんな検疫体制でした。もともとは西部アフリカの風土病の原因であったウィルスは、サルの体内に潜んで海を渡ってしまいました。

 集団発生した土地の名前をとって、病原体は 「マールブルグウィルス」、病気は 「マールブルグ病」と名付けられました。このウィルスはエボラ出血熱同様のフィロウィルス科に属する、ひも状のウィルスで、どんな動物の体内に宿っているかは明らかになっていませんが、げっ歯類の可能性が強いと見られています。マールブルグ市での一件はサルから人に感染しましたが、このサルはおそらくネズミから感染した疑いがあります。

 マールブルグウィルスに感染すると、まず血小板と白血球の急激な減少が見られ、そして頭痛や筋肉痛を伴う39度前後の発熱、さらに下痢や嘔吐が始まります。顔から全身にかけての発疹が起こり、体に触れると耐えられないほどの激痛が走ります。また、全身いたるところに表れる赤い発疹は、この病気の特徴といえます。さらに悪化すると腎不全を起して、エマージングウィルス特有の症状である、全身至る所からの出血が始まる 「炸裂」を起して、出血とショックで90%以上が死に至ります。予防のためのワクチンはなく、治療は回復期の患者の血漿のみが有効とされています。回復したとしても、頭髪がすべて抜け落ちてしまったり、皮膚が剥がれ落ちたり、ときには脳障害などの重い後遺症を残すケースもあります。

 CDCの分類ではマールブルグウィルスは、エボラウィルスやラッサ熱ウィルスと同じく、最も危険な「レベル4」に属しており、日本では国際伝染病の1つに数えられています。国際伝染病とは、伝染力が強く致死率が高いために厳重な隔離治療が必要とされる病気で、日本ではその対策として、@高度安全病棟の建設、A専門家の育成、B患者輸送車の整備、C高度安全検査室の整備、の4点を挙げています。

 ですが、いまだかつてレベル4のウィルスによる感染症が国内で発生したことはなく、現実的な対応がなされているかと言えば、「いない」のが現状です。この国は感染症に対して鈍感なことは、O−157の流行を見れば明らかです。世界一輸入動物の多い日本の検疫制度も万全とは言えません。潜伏期、致死率ともにエボラ出血熱を超えるウィルスに、果してどこまで対応できるのでしょうか。


マールブルグ病
病原体 マールブルグウィルス
発生している地域 元来は西部アフリカだが各地で輸入感染が発生
感染方法 感染者や感染動物の体液、排泄物が傷口に触
れて感染
潜伏期間 4〜9日
おもな症状 頭痛、発熱、下痢などに続き、全身の発疹、全身
の器官からの出血が起こる
危険度 全身から激しい大量出血が起こると、ショックに
より大半が死亡。発症者全体の致死率は25%
予防方法 輸入動物の検疫の徹底
ヒストリー 1967年、旧西ドイツのマールブルグで集団発生
したため、地名にちなんだ病名がつけられる



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