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 バージニア州アーリントン発――米軍は長年、瞬時に標的に到達し、狙いは正確で、そのうえほぼ無尽蔵に発射しつづけられる新たな兵器となる、電磁エネルギーのビームを探求している。この「指向性エネルギー」のパルスは、状況に応じて威力を調節できる。これはちょうど、『スタートレック』に登場するフェイザー銃が、相手を殺すレベルや気絶させるだけのレベルに出力を設定できるのとよく似ている。

 このような兵器は実現に近づいている。しかし、兵站業務に関する問題が戦場でのデビューを遅らせている――イラクの都市部に駐留する兵士たちの緊迫した状況は、標的を死に至らしめない選択も可能な指向性エネルギーの性能を試すのにはうってつけなのだが。

 保守派の『ヘリテージ財団』の上級研究員、ジェイムズ・ジェイ・カラファノ氏は「途方もなく大きな可能性を秘めた素晴らしい技術なのに、先に進めるには状況が万全ではないように思う」と話す。ヘリテージ財団は、指向性エネルギーを前線に送り込む努力が不十分だとして、軍と米国議会を非難している。「今こそ絶好のタイミングだと思うので非常に残念だ」

 指向性エネルギーを用いた兵器に共通する利点は、パルスは光速で進むので、人間であれ機械であれ、標的には避ける余裕がないという点だ。周波数によっては、壁さえも貫通する威力がある。

 射出するものは、光か電波でしかないわけだから、電力さえ供給できれば、他に制限を受ける要素はない。また、化学物質その他の「物体」を発射するものではないので、狙いが不正確になって意図しない相手を傷つけたり、国際条約に違反する結果を生む可能性もない。

 『米海兵遠征隊ライフル分隊(MERS)プログラム』で指向性エネルギーに関連したプロジェクトを統括しているシステムエンジニア、ジョージ・ギブス氏は「完全に死ぬ覚悟で攻撃してくる相手に、降伏を選ばせる余裕を与えてはいられない」と語る。「私が目指しているのは、全員を射って、なおかつ誰も殺さない方法だ」

 指向性エネルギー兵器は、電磁波の周波数帯と同じだけの多様性があると言ってもいいほどなので、さまざまな形態をとることができる。

 その中でもとりわけ単純な形態が、安価な携帯型レーザーだ。たとえば、レーザーで視界全体を覆い尽くし、検問所で止めたい人の目を一時的に見えなくするといった使い方ができる。こうした兵器の一部はすでにイラクで使用されている。

 現在開発中の無線兵器には、電子部品を破壊することで、地雷、肩に担いで撃つ携帯ミサイル、自動車などを使えなくするものもある。これには軍だけでなく警察も興味を示している。

 さらに規模が大きく破壊的なレーザーの研究も進められている。船や飛行機から数十キロメートルも離れた標的を撃破する威力のあるレーザーだ。きわめて高い精度で攻撃できるため、先日アーリントンで開かれた会議で複数の設計者が述べたように、軍は無関係な対象まで無差別に攻撃するという非難を回避できるようになる可能性もある。

 大規模で直接的な武力衝突は減少の一途にあるため、指向性エネルギー兵器の柔軟性はきわめて重要になる可能性があると、多くの専門家が述べている。しかし、ビームを発射するためのアンテナや電源装置をどのように小型化するかなど、実行段階で解決しなければならない問題で、技術の実用化が遅れている。

 軍の関係者たちはまた、相手を殺すのではなく意識を失わせるように威力を調整した指向性エネルギー兵器が、安易に非戦闘員に害をなすものではないということを国際社会に理解してもらう努力が必要だと述べている。

 こうした問題を理由に、米国防総省は最近『プロジェクト・シェリフ』の延期を決定した。これはイラクで使用されている車両に殺傷能力がある兵器とない兵器の両方を装備する計画で、大々的に宣伝されているマイクロ波エネルギーのブラスター銃も装備される。この銃で攻撃されると、皮膚に火がついたような感じがするという。プロジェクト・シェリフが実行されるのは早くても来年だ。

 米軍の『合同非殺傷兵器理事会』(JNLWP)で科学技術の責任者を務めるデビッド・ロー氏は「いったん退いて、これを進めた場合にどんな結果が生じうるのかを確実に見きわめるのが最善の選択だった」と説明する。

 プロジェクト・シェリフで使用される指向性エネルギー兵器の1つは、米空軍の研究者たちが開発して米レイセオン社が製造した『アクティブ・ディナイアル・システム』(ADS)だ。ADSは波長1ミリのエネルギーの爆発を起こし、これが約0.4ミリの深さまで皮膚に突き刺さることで、皮膚内の水分子が熱せられる。攻撃を受けた人の動きが止まるのは間違いない。

軍の研究者によると、ADSの効力は標的が光線の通り道を外れた瞬間になくなり、ビームを一定時間以上当てつづけないかぎり痛みが残る心配はないことが、数十年にわたる研究の結果として判明しているという。一定時間とはいったいどれくらいだろう? その答えは機密事項となっているが、おそらく秒単位で、分単位まではいかないだろう。ビームの射程も公表されていないが、伝えられるところによると小銃よりは長いということなので、攻撃者が引き金を引く前に撃退できるものとみられる。

 合同非殺傷兵器理事会のロー氏によると、ADSは5100万ドルと11年を費やして実用レベルにまで到達したが、「殺傷能力のない指向性エネルギー兵器を実戦配備するのがどれほど難しいか」を証明する実例になったという。

 たとえば、ADSの試作品は大型軍用車『ハンビー』に搭載可能なものの、ビームを発射するには車を止めなければならない。また、エネルギー源として車の電力を使用するため、「兵器の力が制限される」とロー氏は説明する。

 それでもレイセオン社は、大使館や船舶といった細心の注意を払うべき場所向けに、携帯可能で射程の短いADSの類似システムをいくつか開発している。

 米エネルギー省もこうしたシステムの使用を計画しており、同省のサンディア国立研究所の研究者たちは、原子力施設から侵入者を追い払う手段としてADSをテストしている。ただし、必要なテストがまだ多く残っているため、配備は早くても2008年になる見通しだと、研究者たちは述べている。

 その一方、レイセオン社は、空港を対象にした自動防衛プロジェクト『ビジラント・イーグル』の事業を立ち上げようとしている。携帯ミサイルを見つけて、その電子部品を電磁波で破壊しようというものだ。かつて空軍の大佐を務め、現在はレイセオン社で指向性エネルギーの研究を率いるマイケル・ブーエン氏によると、空港1ヵ所当たり2500万ドルの費用がかかるこのシステムは「現実の脅威」に対する効果が実証されているという。ブーエン氏はシステムに関してこれ以上の詳細を明かさなかった。

 米エクストリーム・オルタナティブ・ディフェンス・システムズ(XADS)社(インディアナ州)のピーター・バイター社長にとっては、指向性エネルギーの未来は資金に懸かっている。エクストリーム社は相手の目をくらませる小型のレーザーポインターを数種製造しており、これらはすでにイラクで使用されている。しかし、バイター社長が現在取り組んでいるのは、『スタンストライク』と名づけた、指向性エネルギーを用いた殺傷能力のない装置だ。

 簡単に言うと、スタンストライクは稲妻を発射する。この稲妻は調節が可能で、爆発物を爆破させたり、場合によっては車両を止めることもできる見込みだ。人をしびれさせるのは確実に可能で、攻撃の威力は「ほうきの毛」でなでる程度に抑えることもできれば、麻痺させて「回復まで数分を要する」くらいに強くすることもできる。

 自身もアラブ系のバイター社長は、スタンストライクはとくに中東で威嚇に効果的だと考えている。バイター社長の主張によると、中東の人々はとりわけ稲妻を恐れるという。

 現行のスタンストライクは高さ約6メートルのタワー型で、最大で9メートル弱の範囲にある標的を攻撃できる。次なる課題は、兵士が使用したり、航空機の客室やビルの入り口といった一般市民が出入りする場所で使用できるよう、装置を小型化することだ。また、人体に用いても安全だと立証するため、XADS社はさらにテストを行なう必要がある。

 しかし、何をするにも資金が必要となる。バイター社長は2003年に国防総省と契約を結び、最近その期限が切れるまでに70万ドル以上の資金を受け取った。バイター社長は、レーザーポインターの収入を使うか、大手の防衛関連企業と提携することで、スタンストライクは完成できると楽観視している。しかし、バイター社長は実のところ、いま現在イラクにいる兵士たちが、1軒1軒住戸の捜索するような困難な任務の際に、スタンストライクを使えたらどんなにいいかと考えている。

 「効果的な対策があるとわかっているのに、聞き入れてもらえないのは非常にもどかしい。この技術は容易に実現できるものだ」とバイター社長は語った。

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2004/8/2

  米HSVテクノロジーズ社(カリフォルニア州サンディエゴ)のピーター・アンソニー・シュレジンジャー社長は、数ヵ月以内に、檻に入れたニワトリなどの動物に向けて数十メートル離れた場所からレーザービームを発射する実験を行ないたいと考えている。すべて計画通りに進めば、ビームが作り出す電荷によって、ニワトリの鳴き声が一瞬のうちに凍りつき、脚や翼の筋肉が麻痺するはずだ。ただし心臓と肺は正常に機能し続ける。

 米国防総省も、実験の結果にとりわけ強い関心を寄せる。国防総省は同社の研究に資金援助をしつつ、ニワトリの鳴き声を止めるよりはるかに大きなことを実現する装置を考えている。「指向性エネルギー兵器」と呼ばれる装置で、数年のうちに実戦で使用される可能性もある。

 指向性エネルギー兵器の推進派で、元国防次官補(科学技術担当)のデローレス・エッター氏は、「何かを光の速度で実行できるなら、実にさまざまな能力が新たに得られる」と述べる。

 指向性エネルギーは、イラクやアフガニスタンといった戦闘地域で計り知れない優位をもたらす可能性がある。米軍はこれまで両地域において、武装反乱勢力だけでなく、非武装だが敵対的な群衆への対応も強いられてきた。

 開発者たちによると、指向性エネルギー兵器は、離れた場所から使えるスタンガンのように、攻撃してくる可能性がある相手や非戦闘員を麻痺させることができる。そのほか、ミサイルや道端に仕掛けられた爆弾の電子部品を超高温で無力化したり、高速追跡中の車両を動かなくすることさえ可能かもしれないという。

 最も野心的な応用は、米空軍の『航空機搭載レーザー』(ABL)計画だろう。改造したボーイング747型機にレーザー砲を搭載し、ミサイルを撃ち落とすというものだ。

 一方、ニューメキシコ州の米空軍研究所の研究者たちは、米レイセオン社と共同で『アクティブ・ディナイアル・システム』(ADS)という兵器を開発している。この兵器は、標的の人間の皮膚に含まれる水分子をマイクロ波エネルギーで熱し、敵を撃退するというもので、攻撃を受けた相手は激痛のため、すぐに逃げ出すことになる。

 空軍研究所の広報担当者で、ADSのテストで試験を体験しているリッチ・ガーシア氏は、「ちょうど、皮膚に火がついたように感じる。ビームの通り道から外れると、あるいはビームを止めると、すべてが正常に戻る。後に残る痛みはまったくない」と語る。

 大型軍用車『ハンビー』に搭載されたADS兵器は、評価のため今年末までに全軍の手元に渡り、配備するかどうかを2005年末までに決めることになっている。

 しかし、人間に対して指向性エネルギーを使うという発想には、米テーザー・インターナショナル社製スタンガンによって死亡したとされる例や、イラク捕虜の虐待スキャンダルを受けて、議論が湧き起こっている。このスキャンダルによって、米軍が人権を尊重しているかどうかに、非常に厳しい目が注がれるようになった。

 一部の専門家は、指向性エネルギーが国際法と条約によって規制されるだろうと考えている。

 防衛シンクタンクレキシントン研究所のローレン・トンプソン氏は次のように述べる。「殺すよりは、動きを止めるだけのほうがより望ましいように思える。しかし、非戦闘員の動きを止める方法を制限する各種の条約の存在が問題になる。ある種おかしな話ではあるが、これまでに蓄積された古い法が、人道的な手段の邪魔になることもあるのだ」

 米軍の担当者たちは、ADSが想定している利用法について、国際法や条約に一切抵触せず、恒久的な健康問題をまったく発生させないと考えている。

 米軍の『合同非殺傷兵器理事会』は次のように述べている。「このシステムが最終的に配備された場合、われわれは、意図された用途と範囲からはっきりと外れる用途とについて、きわめて明確に自覚するので、安心してもらいたい。これは、拷問用の装置として使うことを想定して開発されたものではない。拷問という用途は、すべての開発意図に反するし、設計範囲にも入らない」

 兵器化された指向性エネルギーから派生する副作用の研究は1990年代後半、テキサス州サンアントニオにあるブルックス・シティー空軍基地で開始された。研究はまず、軍の通信やレーダーなどの技術に関連する電波のエネルギーの研究を見直す作業から始められたという。

 人間を対象にしたADSの試験は、この兵器を使っても恒久的な害はないと研究者たちが結論を出した後に開始された。軍のさまざまな部署や政府機関から200人以上の志願者70代の志願者もいたが被験者として集まり、ADSのビームを平均で約3回照射された。

 試験の結果、長く後に残る健康問題は一切見られなかったという。

 空軍研究所電波部門の責任者、ウィリアム・ローチ中佐は「このタイプの装置は、それほど深くまで侵入しない」と述べている。

 しかし、指向性エネルギーの人体への影響に関する研究が一般に公開されていないという事実に対し、政府外部からは懸念する声も出ている。

 赤十字国際委員会のドミニク・ロイ氏は、指向性エネルギー研究についてさらに情報を開示し、可能性のある副作用について独立した調査を行なうよう求めている。

 指向性エネルギーは「われわれが現在のところ気付いておらず、治療することもできない、新しいタイプの損傷」を発生させる可能性がある、とロイ氏は言う。「われわれが言いたいのはこういうことだ。『一部の企業が投資していることは理解している。そこで、できるだけ早いうちに調査に着手しておけば、何百万ドルもつぎ込んだあげく、10年経ってからその兵器が違法だと判明するということもなくなるから、そうするだけの価値はあるだろう』」

 一方、指向性エネルギー兵器の開発者たちは、この兵器が人命を救う可能性があるという点も強調する。

 開発者側の言い分によれば、レーザーはターゲットを正確に絞り込めるため、ミサイルならば付随的に与えてしまうような損害をなくすことができ、また、スタンガン的な兵器ならば、人質を取られたり爆発物の脅威があるような状況下で人命を奪わずにすむかもしれない。離れた場所から道端の爆弾や地雷を爆破することも可能になる。

 米エクストリーム・オルタナティブ・ディフェンス・システムズ社(インディアナ州アンダーソン)のピート・バイター社長は、「今取り組んでいる性能ならば、現在使われている即席爆弾の大半は遠くから爆発させられる」と語る。同社は海兵隊向けに、ライフル大の指向性エネルギー銃を開発している。

 この指向性エネルギー装置は、イオン化したガス(プラズマ)を噴射して電荷を発生させる仕組みになっている。

 バイター社長によると、車両や爆発物の電子部品だけに照準を合わせたり、腕や脚の動きを司る随意筋だけを一時的に麻痺させるよう調整したりすることが可能だという。心臓や肺を動かしている不随意筋は、異なった周波数で制御されている。

 現在のところ、これを含めて同様の兵器の種類は一握りしかなく、試作段階に留まっている。軍の承認を得たとしても、わずか数年で製品版の出荷準備を整えるのは難しいだろう。

 HSVテクノロジーズ社のシュレジンジャー社長が開発している装置は、エクストリーム社の装置と似たような働きをするが、電荷を発生させるメカニズムはプラズマではなく、紫外線レーザービームを使用したものになる。シュレジンジャー社長も、装置の設計は非殺傷目的に限られると述べる。

 「今後、特定の機関や法執行部門がこの開発に関与し、致死性の威力が必要だと考えた場合は、もちろん後から開発可能だろう。たとえば、心停止を誘発することもできる。しかし、そのようなことは、われわれの特許の対象ではないし、われわれの意図でもない」とシュレジンジャー社長は語った。

 それでもなお、この可能性がある限り、指向性エネルギーの反対派が懐疑的になるのは間違いない。

 「米国が、より人道的な兵器を探し求めているということは、希望が持てる材料だ。しかし、他の諸国に対して、われわれの目標が倫理に適っていることを納得させるのは非常に困難だ」とレキシントン研究所のトンプソン氏は述べた。




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